「今夜、訪れてもよいか」
終わりに差しかかった夕食の席で、アランは妻にそう尋ねた。
食後酒のグラスを傾けながら、ほかの話題の後に思い出したように言い添えたアランの平静さとは対照的に、エレノールは一瞬身を固くしたようだった。
先ほどまではだいぶ寛いだようすで談笑していただけに、その落差はいっそう際立っていた。
「―――はい。もちろん」
短く答えるその声にも、緊張の色を隠しきれていない。
約十日ぶりの訪問だとはいえ、なぜこの娘は何事もそう重々しく捉えようとするのだろうか。
月経の期間が明けたら、いずれにしろ同衾することは分かっていただろうに。
そう思いつつ、アランは
「では訪ねる」
と自分も短く応じた。


そしていつものように先に席を立ち、食卓から離れる際に上体を少しかがめて、座ったままの妻の唇の端に軽くくちづけた。
小さく漏らされた吐息の熱が、アランの唇にも伝わってきた。
妻は先ほどから目を伏せたままだが、長いまつげが瞬きをしながらかすかに震えている。
アランは形容しがたい気分になり、もう一度唇を奪って今度は深く侵入したい思いに駆られかけた。
だが給仕たちの面前ということもあり、自制してそのまま顔を離した。
その代わり、体勢を戻してから妻の顔を何気なく見下ろすと、彼女はまだ目を伏せていた。
ほろ酔いのようにほのかな朱色に、左右の目元が染まっている。
立ち去るアランの脳裏に、その朱色が妙に焼き付くことになった。






両開きの扉が重々しくひらかれた。
アランが足を踏み入れると、左右に居並ぶ侍女がこうべを垂れ、彼女たちの頭髪を厚く覆うヴェールの衣擦れがつづいた。
いまに始まったことではないが、妻が母国から連れてきた侍女団の挙措の厳粛さ、悪く言えば仰々しさにはつくづく感心させられる。
アランは深い毛足の絨毯に歩を進め、部屋の奥の寝台に近づいていった。
彼の後ろには何人かの小姓が従い、就寝前の飲み物やグラスを携えている。
寝台には華奢な人影が腰かけ、横顔をこちらに向けている。
当然ながらそれはこの部屋の主エレノールだが、来訪者を立って迎えるでもなく、膝の上に組んだ両手をじっと見ているようだった。
かまわないか、と一言断ってから、アランはその傍らに座った。
エレノールはうなずくだけで、彼のほうは見なかった。
王太子夫妻が寝台に二人並んで腰かけるところを見届けるまでが己の義務と心得ているかのように、小姓と侍女たちは恭しく面を伏せて挨拶し、退室していった。


いまや、本当のふたりきりになった。
「遅くなった」
「―――いいえ」
エレノールはうつむいたまま答えた。
アランがこの部屋に入ってきてから、まだ一度も彼と目を合わせようとしない。
エレノールはふと、寝台の脇の小卓に置かれたいくつかの小瓶に目を留め、安堵を感じたようだった。
「そのとき」までの時間を引き延ばすことができそうだと、無意識に喜んだからかもしれない。


「アラン、何か、お飲みになりますか」
「ああ、―――いや、今夜はいい」
「そう、ですの」
ふたたび沈黙が降りた。だが今度は、エレノールが何とか次の話題を手繰り寄せようとする前に、アランの右手が彼女の肩を抱き、そして左手が彼女の顎をそっと持ち上げた。
大きな黒い双眸が怯えたようにみひらかれ、そして観念したように閉じられた。目元はやはり朱色に染まっている。
アランは一瞬、食後の果実酒の香りのなかでおぼえたあの欲望、このまま唇を割って舌を絡めとり弄びたいという欲望に駆られかけたが、まずは唇を重ねるにとどめた。


「アラン」
夫の顔が離れていったとき、エレノールはまぶたをゆっくりひらき、初めて彼の双眸を見上げた。
「あの、―――ここ数日は、ずっと、あちらの、蒼き峰の塔にいらしたの?」
「そうだ。二日ほど、翌朝が早いために行くのを控えたが」
「そう。あの塔は少し、遠いものね。あなたのお部屋からは」
「この部屋からもな。わざわざよく来たと思った」
「それは、だって―――前触れもなく伺ったことは、申し訳ないと思っておりますけれど」


口では詫びつつも、表情全体はいつのまにか緊張から解放されつつあるようだった。
ふたりだけで共有する記憶を語るときならではの、やわらかい笑顔を浮かべている。
艶やかな黒髪の一房が、ふと額から目元にこぼれおちた。
欲しい、という思いが、アランのなかでふたたび高まり、もはやこらえがたくなった。
彼女の頬に左手を添え、もう一度唇を重ねた。
温度を感じるくらいの間そうしてから、有無を言わせずに舌を挿入し、口腔内と彼女自身の舌を丹念に嬲っていった。
エレノールの息が上がるのが分かったが、止めるつもりはなかった。
いったん舌を抜いてからは、短いくちづけを何度も重ねながら、右手を首筋に滑らせた。
それから胸元の組紐に指をかけた。


「ま、待って。お待ちください」
エレノールは慌ててその手を押さえた。アランは少し顔を離した。
「あの、もう少し、何か、お話をいたしましょう」
「これ以上進むのは、いやか。―――まだ痛むか?」
「い、いいえ。そういうことでは、―――でも、あの、わたくし、まだ。
 気持ちがまだ、追いついていないのです」
アランは動きを止め、妻を見下ろした。夫の自若ぶりとは対照的に、エレノールは肩で息をしたまま、彼を見つめ返した。
アランは少しのあいだ黙考した。


ここに来る前に自己処理をしておいたのは正解だった、と唐突ながら思った。
もとはといえば、妻だけでなくあらゆる愛人たちも含め約十日ぶりの交歓である以上、早々に抑えが効かなくなって失態に陥るのは避けたい、
という純粋な危惧からその措置をとったのだ。
結果としてそのおかげで、このような一触即発の―――力ずくで思いを遂げようとすればそれも可能な―――状況に置かれても、
強引になりすぎずに妻と向かい合い、ことばを交わすことができている。
その意味でもまあ、正しい判断だったのではないかと思う。
アランはふたたびエレノールの言ったことを反芻した。
ある意味では、妻の反応は予想通りのものであった。
ほんの十日ほど前まで処女であり、その後もずっと孤閨にあった娘だ。心が追いつかないということはありうる。
その分は、緊張を解きほぐしながら最初に身体に馴染ませることで、効率的に互いの快楽を引き出してゆくべきであろう。
アランは頭の中で、履むべき手順を組み立て、これでいいと思った。


「反省はしている」
「え?」
「この間は、途中からつい性急になってしまった。悪かったと思う」
「え、い、いえ、……わたくし、そういう意味では」
潔いまでに自省的な夫の態度に、エレノールの緊張感もまた退いたようだった。
「やはり、もう少し時間をかけるべきだったな。そなたは初めてだったのだから」
「え、ええ……」
初めて、ということばに色々な記憶を刺激されたのか、エレノールはいたたまれなさそうに視線を伏せた。
「だから、今日は色々な作法を、ゆっくり手ほどきしてゆきたいと思う」
「色々な?」
エレノールは顔をあげた。困惑の色が浮かんでいる。
「色々とは、どういう意味ですの?わたくしたち、あの朝に、その、一通りは」
「夫婦のことは、一通りだけではない」
そう言いながらアランは妻の肩を抱き寄せた。漆黒の髪を指先で梳いてやりながら、ときおりこめかみに優しく接吻する。
大抵の女はこうすれば自ずとなびいてきたものだが、妻はまだ本気で怪訝な顔をしている。
「子どもをもつという目的はひとつなのですから、その手段もひとつで十分なのでは?」
「―――あ、ああ。まあ、そういう考え方もある」


想定外の反応に、アランも若干答えに窮した。
男女の営みは、ひとえに生殖という崇高な目的のためにのみ許されたものである。
聖典の記述は高らかにそう語っているが、この国の上流社会でそれを遵守している人間はよほど希少な存在といえる。
(これだから、信心の塊のような連中は)
と、荘重なまでの敬虔さで知られる隣国の宮廷の気風を恨めしく思いながらも、それを不用意に軽んじると不本意な結果につながりうることは分かっていた。
場合によっては、明日から寝室の敷居をまたぐことすら拒否されることになりかねない。
寝台の上で歓楽を分かち合う手法を一度に教え込もうとすれば、むしろ化学反応のように絶大な反発と軽蔑が生じて、今後一切の房事を拒否される事態に陥りかねない。
(それは避けたい)
アランは考えをめぐらした。
(やはり、基本の基本からがよさそうだ)
ある意味で、アランにとってもそれは初めてになりそうだった。
彼がこれまで馴染んできた婦人たちのほぼ全員は、そのような段階を経る必要がなかったからだ。


「では、言い直そう。今日は、その手前のことだ」
「手前?」
「子を得るために身体を重ねるには、身体のことを知っておく必要がある。そうだろう」
「知っておくとは」
「とくに、そなたの身体のことだ」
「わたくし、自分のことくらいは―――あっ」
エレノールは全身を硬直させた。肩を抱いていないほうのアランの手が、胸元から寝衣の下に忍んできたのだ。
「お、おやめください。そんな、そんなところは」
顔を紅潮させたエレノールが払いのけようとするが、アランの手はすでに肌着の胸当ての下にまで入り込んでいた。
大きな掌で乳房をじかに包まれたことで、エレノールの唇からあえかな息が漏れた。
「だ、だめです」
熱い息をこらえながら、なんとか毅然と訴えようとする。


「いまさら何を拒む。このあいだと同じ営みだ」
「こ、この間は、何もかも初めてで、呆然としてしまって、受け入れるほかなかったのです」
「ひたすら嵐に耐えていたと?それほど受動的にも見えなかったが」
エレノールの顔はとうとう耳まで赤くなった。こぶしを固め、唇をかみしめている。
憤りと恥ずかしさが募るあまり、抗議の声もすぐには上げられないような風情である。


「―――と、とにかくそこは、授乳のためのもので、子を持つ営みとは、関係ありません」
「妊娠に直接関係なくとも」
アランの指が、ふくらみの頂上を軽くなぞった。エレノールは思わず背中をそらした。
「……やっ……」
「ここを刺激すると、じきに硬くなって、やがて脚の間が潤いはじめる。不思議だが、女の身体はそういう仕組みになっている」
「か、硬くなんて……やめ、やめてください……あっ……」
エレノールは必死で否定したが、彼の指に摘まれてはそっと押されたりなぞられたりしている小さな突起が、
いまや全身を火照らせる愉楽の源になっていることは、だれが見ても明らかだった。


「素直に上を向いている。自分の目で確認させようか」
「い、いやっ」
妻の反応にはかまわず、アランは彼女の襟に手をかけ、ついで胸当ても剥ぎ取って、右肩から右胸にかけてをむき出しにした。
小麦色の滑らかな肌は灯火に照り映えて、蜂蜜のような光沢を帯びている。
一点、薄紅色に覆われた乳房の頂は、果たして堂々と屹立していた。
「見えるか。どうだ」
エレノールは唇を噛んで顔をそむけた。
なぜ、こんな屈辱を味わわされなければならないのか、と無言で非難している。
その一方で、呼吸の荒ぶりを必死で抑えようと努めているらしいのもアランには分かった。
自分の敏感な乳首が灯火のもとでじっくり観察されているということに、名状しがたい高揚をおぼえている。そう推察せざるをえなかった。
指による愛撫がいったん中止された今でさえ、そこがますます硬く上を向いているのは、おそらくそのせいであった。


「触れていないほうはどうか」
そう言って、アランはまた妻の残された左側の襟に手をかけ、まだ胸当ての半分に覆われていたほうの乳房も灯火のもとにさらけだした。
「双子のようだな。こちらも上を向いて尖っている」
「う、嘘」
「本当だ。ほら」
アランは妻の首の後ろに手を添え、左の乳房がその視界の中央に入るようにはからった。
「い、いや……」
「己を知るのは大切だと習わなかったか。これがそなたの身体だ」
もっともらしい抑えた口調で、アランはエレノールの耳元にささやきかける。
羞恥のあまり泣き出しそうな目元が、アランのなかで高ぶる情欲をいよいよ煽り上げてゆく。
「待ちきれずに自分で硬くなるなど、いじらしいことだな」
「ち、ちが……あ、ああっ」


エレノールの声がひときわ高く上がった。アランの唇で左の乳首を挟まれ、そっと吸い上げられたからである。
右の乳首はふたたび指の腹でこすり上げられ、執拗に丹念に弄ばれている。
「や、やめて……こんな、罪深いことを、しては……」
息も絶え絶えにしながら、エレノールはなんとかこれだけは言ったが、あとのことばは喘ぎにかき消されてしまい、もちろんその嘆願がただちに聞き入れられるはずもなかった。
初々しい桃色の頂の味わいをじっくりと堪能した後で、アランはようやく顔を上げた。
妻の頬に手を当て、正面から見据える。解放されたばかりのエレノールはまだ息を整えられないまま、怯えたように瞬きをした。


「罪深い、と感じるのはつまり、歓びをおぼえているからだな」
「ち、ちがいます。そんなことは、決して」
「下を見ればわかることだ」
「下?」
「ここのことだ。たとえ直接触れられていなくとも、そなたの身体のどこかが快楽を受け取れば、ともに潤ってくる」
「えっ……い、いやっ」
妻に悲鳴をあげさせようと構うことなく、アランは彼女の両膝に手をかけ、そのうちの片方を片足で押さえると、大きく左右にひらかせた。
寝衣の裾はあられもなくはだけられ、絹の肌着があらわになっている。
アランはさらに迷いなく手を伸ばして、肌着の中央、谷のくぼみのようにも見えるその場所を指で軽くなぞった。
ほぼ同時に、エレノールの全身が大きく震えた。


「だ、だめっ」
「素直だな。乳首への愛撫だけで、驚くほどよく濡れている。
 肌着がすっかり貼り付いて、凹凸がほとんど浮かび上がっている」
「や、やめ、やめてください、そこは……っ」
アランが指を前後にすべらせるたびに、エレノールの息がこれまでにも増して荒くなった。
「布越しでも、音がたってきた。聞こえるだろう」
「い、いや……違います……」
「態度のほうは、素直ではないな」
妻の精一杯の反抗に対し、不興をおぼえるというよりむしろ面白がるような声でアランは応じた。
そして今度は彼女の腰を持ち上げて寝台から少し浮かせ、肌着に直接指をかけて膝の上あたりまで引き下ろした。
エレノールに抵抗する猶予も与えない、実に巧みな手際だった。


「何ということを!」
エレノールは愕然として脚を閉じようとするが、当然のように制止された。
アランは満足しきったように、眼前の光景を見下ろしている。
「いずれにせよ、これも脱がねばならぬことは分かっていただろう?
 見てみよ」
そういって、エレノールの肩を抱きながら示したのは両腿の間、つまり彼女の脚の付け根と肌着の間だった。
透明に光る粘液状のものが、ほとんど断ち切れそうになりながらも両者を結びつけていた。
エレノールは呆然としたように一瞬ことばを失ったが、ついで思い切りかぶりを振った。


「い、いやっ……!」 「しっかりと糸を引いている。これが、快楽に応えて溢れでる蜜だ」
「まさか、そんな」
「悪いものではないぞ。これのおかげで、硬く張り詰めた雄を滑らかに奥まで受け入れることができる。苦痛なく、歓びとともに」
「歓びなど、罪ではありませんか」
「だが、他者に苦痛を与えるのも罪だろう。俺に罪を負わせることは躊躇ないか」
「そ、そういう意味では、ありませんけれど」
「ならば、素直に享楽に身を任せればよい」
「で、でも……あっ!」
エレノールの全身がびくりとした。アランの人差し指と中指がふたたび彼女の花びらをなぞり、割れ目に侵入し、すくいあげるような動きをした。


「ああぁ!」
あまりに激しい快感に一瞬朦朧としかけた彼女の眼前に示されたのは、花芯から抜き取られたばかりの二本の指だった。
淡い燭台の光を受けながら、ぬらぬらと照り光っている。
指先が互いに離れると、その間に透明な糸のような橋がかかり、次いで切れた。
だがアランの動作はそれで終わりではなく、彼女のつい眼前で、その指先を吸って見せた。
エレノールの大きな瞳がいっそう大きくみひらかれ、その心臓が、驚きと羞恥と、そして形容しがたい刺激によって、大きく飛び跳ねたかのようだった。
「やっ、アラン、何を……!」
「悪くない。淫乱の味がする」
「無礼な!」
「真実だろう。ついこのあいだ処女を失ったばかりの娘が、花びらの内も外もあふれんばかりに蜜を滴らせている。
 そして糸を引くほどのこの量だ。淫乱と呼ばずして何という」


語りかけながら、アランはふたたび二本の指を妻の秘所に挿しこみ、大きな水音を立てながら愛撫をつづけた。
「や、やめ……て……」
「ここはそう言っていない。見ろ、指を抜き差しするたび、喜んで音をたてている」
「違い……ます、わたくし、そんな……あぁっ……い、いや……あぁっ……そこ……」
「いい反応だ」
「だ、だめ、こんな、こと……」
「だめか。そなた自身の身体だ。素直に受け入れればよかろう」
「い、いや、です……自分が、淫乱、だなんて……」
「俺にはむしろ、望ましいが」
囁きかけながら、アランはエレノールの片方の手を取った。
「俺のものだけ欲しがる淫乱ならな」
「えっ……やっ!」


彼が妻につかませたのは、寝衣の下から取り出した、すでに屹立して久しい彼自身だった。
能動的な動きはしてくれないとはいえ、真綿のように滑らかでやわらかな妻の掌に包まれると、彼の息も我知らず熱を増した。
できるかぎり平然とした態度を貫こうとは思うが、内心ではかなり限界が近いと感じていた。
「どう思う」
「……硬い、です」
「そなたの痴態を見せつけられたせいで、こんなふうになった。これも男の身体の仕組みだ」
「ち、痴態ではありません!そもそもそんなこと、知る必要はありません」
「そうでもない」


アランは彼女の手を上から抑えるようにしたまま、ゆっくりと上下に擦り上げさせ始めた。
「や、やめて、わたくし、こんなこと、できません」
「男の身体も、刺激を与えられれば変化する。平等にできていると思わないか」
「し、知りません」
エレノールの赤面もいっそう色を濃くしていたが、実際には、彼女の手はアランの手を振りほどこうとするほど暴れようとはしなかった。
アランの下腹部を見ないように顔を背けながら、ただなされるがままに彼のものを愛撫させられている。
夫には従順であらねばならぬという、生国で繰り返し説き聞かされた妻の義務を思い出したのか、あるいは口にはできない好奇心がはたらいているのか。
その掌のぬくもりと摩擦から与えられる感覚に加え、睡蓮のつぼみのように清楚な面影の妻にこんな振る舞いをさせているという事実に、アランの硬直は否応なく高まっていった。


反応をみる限り、エレノールは本当に男のものに触れたことがないらしい。
いっそこのまま、行きつくところまで行って妻の手を濃厚な白濁液で汚してやりたい衝動に強く駆られたが、アランはさすがに思いとどまった。
極力自制しつつ、代わりに顔をエレノールの首筋に近づけ、髪の生え際や耳たぶに何度も口づける。
「あ……」
羞恥と憤りは抜けきらないながらも、一方で甘美な気持ちが高まってきたかのように、エレノールの声も潤いを含んできた。
よい兆候だ、と思いながらアランは接吻をつづけ、そのまま何気なく、彼女の秘所を行きつ戻りつ、優しくまさぐっていたほうの指を動かした。


「―――い、いやっ!だめ、そこは!」
花芯から抜き出されたアランの二本の指は、彼女自身の花びらを下から上へなぞりあげ、さらにつぼみを擦りはじめた。
エレノールは今まで以上に大きく反り返り、アランの肩にほとんど上体を預ける形になった。
これまでにも増して鋭い快感が生じるたびに、腰から突き上げるような震えが彼女の華奢な全身へと及び、アランの身体にもじかに伝わってくる。
「やはり、つぼみのほうが感覚が鋭敏のようだな。これまで、自分でかわいがったことは?」
「じ、自分でだなんて、何をおっしゃるの」
「自慰のことだ。おぼえはないか」
「あたりまえです!まさか、そんな、罪深い」


(予想どおりか)
と、アランは得心した。
このむすめは、肌を重ねた恋人を祖国に残してきながらも、自分で自分を愛撫しながら「その男」を思い出したりしたことはないらしい。
そう思い至ると、アランはやや満足をおぼえたが、しかしむしろ、今このときに「その男」のことなどを意識している己に腹が立った。
王家とは通婚すべくもない他国の下級貴族の倅に、対抗心を燃やすなど馬鹿げたことができようか。
(どちらにしろ、この娘の純潔は俺が奪ったのだ。―――女にしたのは、俺だ)
既成事実を思い出すことで、アランは心に平静を取り戻そうとした。
いまはとにかく、新妻の「教育」に専念すべきときだった。
彼女を自分の色に染めることで、懸念がようやく払拭できる、かもしれない。
―――認めたくはなかったが、アランも自分を不安にさせるものの正体は分かっていた。


「本当に、今まで一度も、触れたことがないのか」
「当然です。聖典でも厳しく禁じられる罪悪ではありませんか。―――自分で、だなんて」
(自分以外の者の手では、どうだ)
そのとき、初めての歓喜を教えられたのか。幾度となく、指だけで無上の高みへと追い込まれたのか。
決して口には出せないが問いたださずにはいられない疑惑がアランの心中を交錯し、累乗的に高まってゆく。
それは下手をすると暴力的な撫抱にも転化しかねない衝動だったが、アランは踏み止まった。
エレノールがかろうじて示そうとする抵抗を彼の手は全く意に介していないが、つぼみを左右から撫でさする指の動き自体は決して強引ではない。
妻の身体に忘れがたい歓びを刻み付けたいなら、彼女の反応を見ながら、あくまで彼女が望むように探ってゆくこと、それが最も肝要であることは、アランもよく分かっていた。


「あっ……そこ、だめ……あぁっ……あぁ……すご……」
エレノールの声も表情も、徐々に頑なな殻を脱ぎ捨てつつあった。
拒絶する態度もまた、ほとんど形式的なものになっていく。
「そ、そこ、いい、…いけな……すごい………あ、あ、あぁっ!ああぁっ!!」
天井にも届かんばかりの嬌声はついに、いまや自制のたがを外れたものになった。
痙攣といってよい激しい震えに身を任せながら、エレノールはアランの指使いに耽溺しつづけ、―――そして、彼の腕の中でついに達した。




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